NECESSARY EVIL

生まれ変わりました。necessary evilとしての人間になりたいです。百合作品を筆頭に、アクション映画、アニメ、マンガ、ゲーム、野球など雑多に書きますね。

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統一感は無くとも情熱は本物です。
デザインはテーマ流用なので深い意味はないです。。。

結城友奈は勇者である 勇者史外典 上下巻 感想

こんにちは、伊吹柚子です。

 

ノベルの感想です。


結城友奈は勇者である 勇者史外典(上下巻)

www.kadokawa.co.jp

[著者] 朱白あおい [企画原案・構成]タカヒロ

[出版] アスキー・メディアワークス

[あらすじ](上巻)

これまで語られることのなかった初代勇者と巫女たちの姿が描かれる!
結城友奈は勇者である』シリーズ最新ノベル。結城友奈の世代から300年前の初代勇者の時代。過酷な運命のなかで生き抜いた初代勇者とそれを支えた巫女たちの物語。(KADOKAWAより)

 

 

 

本作『結城友奈は勇者である 勇者史外典』は、『上里ひなたは巫女である』、『芙蓉友奈は勇者でない』、『烏丸久美子は巫女でない』の3章から成る作品です。

 

今回も、活字嫌いなどで読むのを躊躇っている方の参考になればと思って書きます。

 

一つ一つが独立した作品というわけではないですが、一応、章別でご紹介します。

 

 

 

1.『上里ひなたは巫女である』

 

時間軸としては、およそ西暦2018年~神世紀2年頃までのお話。

タイトルだけ見ると、ひなたを中心にしたものと思われますが、実際のところは、主要な巫女たちを中心とした巫女側全体の物語です。

 

乃木若葉を見出し、巫女の実質最上位にいる【上里ひなた】

土居球子・伊予島杏を見出し、陽気で年相応な巫女【安芸真鈴】

郡千景を見出し、彼女を崇拝する、クールで淡々とした巫女【花本美佳】

高嶋友奈を見出したとされ、現在は巫女の力を失い、神官かつ巫女の教師をする【烏丸久美子】

 

この4人が、勇者たちが表に立つその裏側で、大社の中でどう過ごしているのかを描きます。

勇者たちが厳しい戦いに身を置き、若葉以外が亡くなっていく一方で、巫女たちも、見出した勇者を失った苦しみに晒されたり、奉火祭があったりと、かなりシリアスな内容になっています。

本章は5話構成で、内容的にもちょうど5分割できるので、1話ごとにご紹介します。

 

第一話は、巫女たちのキャラクターと生活をつかむ、序章のようなものです。

ひなたは相変わらずの性格で、巫女の中でもとにかく慕われている様子。

真鈴は、巫女としての生活に閉塞感を感じていて、年相応の楽しい生活を望む明るい子という感じですね。千景と同い年なので、球子や杏のことはお姉さんらしく見守るけれど、一方でその性格から、美佳にはあまり尊敬されていない様子。

美佳は、比較的クールで、淡々と、時に冷淡なところがあるキャラクター。とにかく千景に心酔していて、千景のことが心配だが、真鈴が球子や杏に気軽に接するのとは真逆で、千景に会いに行く勇気はない。大社にも不信感を抱いている感じですね。

巫女とはいえ、やはり三者三様で、大社に委ねっきりの巫女はほとんどいません。特に、勇者の中でも異端だった千景を見出したのが、巫女の中でも異端な美佳というのも因果ですね(久美子もかなり異端ですけど、彼女の場合は事情が異なるので)。

 

第二話は、美佳目線でのお話。

どのようにして千景と出会ったかに始まり、千景の家庭環境を踏まえて千景の行く末を非常に不安視している姿や、真鈴との関わりの中で、千景への向き合い方を変えていこうとする姿が描かれます。

最終的には、勇者たちと合同で花見をしようという話をし、真鈴に教わりながら、美佳が手料理を作るというところで終わります。

 

第三話は、球子と杏の死を中心としたお話。

本編ではほんの一瞬しか触れられなかった、球子と杏の死を悼む巫女、つまり、真鈴の姿が描かれます。

大まかには、廃人のように落ち込む真鈴が、美佳に発破をかけられたり、天空恐怖症候群の弟の回復した姿を見たり、遺品から球子と杏を感じたりして、前向きに立ち直っていく流れです。

ただ、そのまた裏側では、千景をめぐる大社の動きに反発した美佳が動き始めます。

 

第四話は、千景の暴走と死をめぐる、美佳のお話。

この話が、個人的には一番の見どころと思っています。というのも、やはり千景の暴走と死自体がのわゆ本編でも大きな意味をもつ話ですし、その裏側について描かれているとなれば必読な上、なかなかにシリアスな内容です。恐らくこのシリーズでは、第三章『烏丸久美子は巫女でない』の次に衝撃的です。

詳細はぜひ読んでいただきたいと思うのであまり書きませんが、千景が実家に連れ戻されたり、戦死したり、勇者から追放されて葬儀もされず名も残されずの扱いを受けたりする中で、そのたびに美佳がどう振る舞うかを描いています。千景に心酔し、千景の両親を恨み、大社に不信感を抱いた彼女がどう振る舞うか。相当に思い切ったことをします。後はなにげに、久美子のキャラクターも、よく描かれています。第三章への布石ですね。

 

第五話は、友奈が戦死した後の巫女たちの話。

奉火祭や大社のシステムを巡って、ひなたを中心に描かれます。本編でもある程度は描かれていますが、さらに巫女寄りに、詳細に描かれています。

若葉たちや巫女たちとの接し方を見れば、ひなたが優しい少女であることは明らかですけど、奉火祭以降、大社に対する反抗心を抱いた後のひなたは、ある意味ではゆゆゆシリーズの誰よりも恐ろしい感じがしました。

ひなたが、若葉や巫女、そして四国を守るために、大社にどう立ち向かったのか。必読です。

 

 

 

2.『芙蓉友奈は勇者でない』

 

時間軸としては、神世紀29年頃。

バーテックスの襲来を直接経験した時代から数十年経っており、バーテックスの存在すら陰謀論が唱えられる時代。

 

神世紀の転換期などを中心に疑いを持ち、探求する【芙蓉・リリエンソール・友奈】

自分の名前が特別であることを嫌い、名前に適う力を欲する【柚木友奈】

 

このふたりの少女が織りなす物語です。

基本的には、柚木友奈視点で物語が進みます。

柚木友奈は、「友奈」という名前に反して、自分が凡人であることを嫌っています。そんな時、バーテックス、壁、勇者、大赦といったものの言説を陰謀だと疑い、真実を探求するための非公認部活『勇者部』を立ち上げて活動する、芙蓉友奈と出会います。

一見すると、陰謀論者の残念美少女である芙蓉友奈ですが、なんだかんだで彼女の活動に付き合っていくうちに、彼女が単なる陰謀論者ではないことがわかります。

物語の鍵となるのは、柚木友奈の「友奈」という名前へのコンプレックスと、芙蓉友奈の死別した米国人の母です。この二つが、二人の友奈の物語を作り上げています。

大赦やバーテックスといったものが絡んでくるお話ではありますが、それよりも、この時代を舞台としたふたりの少女の青春物語という感じです。シリアスな部分もありますけれど、このシリーズの中では、くめゆと同じくらいの安心感で観ていられますね。

 

ところで、芙蓉友奈のCVは、結城友奈、高嶋友奈と同じく照井春佳さんですが、芙蓉友奈自身は勇者ではありません。同じく「勇者ではない友奈」なのに、なぜ柚木友奈だけがCV照井春佳さんではないのかについては、恐らくは、二人の名前の由来に起因するのだと思います(柚木友奈の「友奈」は実は...)。

 

 

 

3.『烏丸久美子は勇者でない』

 

西暦2015年、大阪の大学院生【烏丸久美子】が、奈良県御所市にてバーテックス襲来を迎えるところから始まる物語です。

スーパーで買い物をしていた久美子たちのもとに、バーテックスが襲来。店外でバーテックスが人間を食らい尽くす中、店内の客たちは籠城。精神をすり減らす状況を打破するため、久美子は、自分自身がバーテックスを引きつける囮となって、その隙に客たちを逃がす作戦を立てる。上手く囮になったものの、待ちきれない客たちが店外へ。客が食われそうになるところ、【高嶋友奈】と【横手茉莉】が現れ、友奈が敵たちを蹴散らす。3人は協力し、生き残った人たちと共に、バスで被害の少ない四国を目指す。

こんな感じで話が展開していきます。

 

最初の展開だけ見ると、死体の飛び散る最初の惨状以外は結構マトモなお話かと思って読み進めちゃうのですが、展開が進むごとに、この作品の異様さが増していきます。前述の通り、個人的にはこの『結城友奈は勇者である』シリーズの中では一番衝撃的でした。

やはり一番は、この烏丸久美子というキャラクターの特異性。自分が囮となってバーテックスを引きつけるのも、客たちを四国へ逃がそうとするのも、決して単なる善意ではない。究極を言えば、平凡であることを極端に嫌う久美子自身の欲を満たすためだけの行動。久美子は最初のほうで自分の性格を語る際に、「犯罪以外のことは、思いつく限りあらゆることをやった」と回想しますが、今回の物語で結構な数の犯罪を犯します。そして、ただでさえ腕っ節も強いので、主人公でありながら敵か味方かわからない感じがあります。

そして、横手茉莉というキャラクター。この子は一般的に言うところの「普通の子」ですが、烏丸久美子、高嶋友奈、そして一緒に四国へ逃げる他の客たちとの関わりの中で、ひどく苦しめられながらも、彼女たちの運命を左右する存在となります。

 

丸久美子、横手茉莉、高嶋友奈の3人を中心に、彼女たちがどのような運命をたどるのか。そして、なぜ「高嶋友奈を見出した本物の巫女である」横手茉莉ではなく、烏丸久美子が高嶋友奈の巫女として大社に迎えられたのか。これまでの物語から、高嶋友奈は勇者として、烏丸久美子は友奈を見出した元巫女・神官として生き延びることは明らかではありますが、その終着点を知っていながらも、この作品は読む価値があります。

 

個人的には、何度考察を繰り返しても、烏丸久美子というキャラクターを善意の人間として見るのには無理があるなぁと思っています。言ってしまえば、善意もないし悪意もない。人間らしい性格だけど、人間社会に置いておくのは難しい。それこそ、バーテックス襲来によって歪になった世界でこそ生きられるキャラクターです。

 

 

 

 

この勇者史外典は、読まなくても特に困らないけれど、シリーズが好きなら必読という作品ですね。私はとても好きです。なにげに、勇者でも巫女でもない芙蓉友奈、柚木友奈、烏丸久美子が一番味のあるキャラクターなのかもしれません。

 

 

 

 

 

以上

 

 

 

 

 

 

伊吹柚子(Ibuki Yuzu) ゆゆゆいのストーリーノベルが発売されることを願う