2DK、Gペン、目覚まし時計。 1巻 紹介[百合作品]
こんにちは、湊柚子です。
百合作品の感想です。
2DK、Gペン、目覚まし時計。(1巻)
[著者] 大沢やよい
[出版] 百合姫コミックス
[あらすじ]
仕事も家事もソツなくこなすデキるOL・香月奈々美は、故郷・福岡に彼氏を置いて、ここ東京で遠距離恋愛をしている。ぐーたらで生活能力ゼロと言ってよい童顔アラサー・藤村かえでは、漫画家デビューを目指して、今日もネーム作業を…始めようとしている。何から何まで全く正反対の女子ふたり。何もないようでその実、結構いろんなことが起きる同居生活、はじまり、はじまり。(コミックシーモアより)
「同居百合界のニューカマーである」。そんな印象を受けました。
通常、同居百合と言えば、百合なのかどうか意見の分かれるレベルのものか(例えば、「同居人が不安定でして」)、或いは、とにかく好き同士が同棲してなんとなくイチャイチャしている普通の同居百合の二つに大別されると思うのですが、この「2DK、Gペン、目覚まし時計。」は、一方は確実に百合女性でありながら、同居人には恋していない、同居百合なのです。つまり、大別されることなく、中間に属するものとも言えます。
これをより具体的に説明するには、内容に移る必要があります。
主人公の香月奈々美は、ワークライフバランスがしっかり取れているデキた女性で、見た目の美しさに博多弁の可愛らしさが乗っかっており、それでありながら人間味もある、本当の意味でのパーフェクトな女性。そんな奈々美の同居人が漫画家志望(作中で実現)の藤村かえで。童顔で生活能力も低い女性でありながら、奈々美と巧いことやっている。
初めに、恐らく衝撃を受けるのが、奈々美に彼氏がいる事実。正直、これ一つで読むのをやめてしまった人もいるのかもしれませんが、ここでは踏ん張って欲しいわけです。踏ん張って読み進めると、まもなく奈々美がフラれます。フラれたところが、ある意味このシリーズの出発点かもしれません。何故ならば、このことによって、奈々美にとってはその男が「普通の大人の女性としての生き方を得るために何とかキープしておきたかった結婚相手」であって、奈々美が女性を愛する女性であることが明らかになったからです。恋愛感情は薄いが好感は持てる男性と(なかば無理矢理)結婚して、普通の社会的立場に立とうとするのは、同性愛女性に見られる悲しい現実だそうですね。
こうして、奈々美が百合女性であることがわかったわけですが、前述の通り、奈々美はかえでに全く恋愛感情がない。かえでとの関係を表して「恋とか愛じゃないすばらしい関係」と考えたり、酔ったかえでに絡まれても「相手がコレじゃなあ」「見れば見るほどタイプじゃ(ない)」「キスとかしちゃっても良かったもん かえちゃんじゃなかったら」「(間違いが起こるとか)全然考えもできない」と、ことごとく全否定なのです。
結局、奈々美が彼氏と別れたにしても、百合らしい百合の匂いがしないのですよね。ですから、この1巻だけでは何とも言えないわけです。
しかし、あえて現在4巻まで読んである立場から言わせてもらうと、この先どんどん百合らしくなり、この1巻も色んな意味で土台であり、「2DK、Gペン、目覚まし時計。」ワールドを形成する意味で必要なのです。
一応、他の登場人物である今回の2人(谷原侑子、城山恋由姫)についても、覚えておくと、より次巻以降を楽しめます。この作品の良さは、そのような主軸以外の部分も巧く作られているところにもあります。
私も結構な百合界男性不要論者ではありますが、この作品において「男邪魔だわ」と感じることはそうそうないので、是非とも読んでいただきたいです。
※立花館ほか、これまでの記事は「感想」としてましたが、感想というより紹介に近い気がしたので、この作品シリーズ以降は「紹介」と称します。